昨年の12月から今年1月にかけて開催した『白の気配』。
ふたりの作家さんと同じテーマのもと、2ヶ月続きで開催するのは初めての試みでした。
「なぜそうしたんですか?」と度々聞かれたのですが、具体的な何かがあったというより、直感や感覚に従った結果そうなった、といった感じでしょうか。出会った時期も違うし、おふたりが知り合い同士だったわけでもなく、コラボ展のようにしたかったわけでもなく。
それぞれの作品を前にした時に、情報であふれる日常からしばらく離れられる空気感や、作品がつくり出す心地よい緊張感、目の前にあるものがすべてになる感覚があって。表現が難しいですが、作品にどんどん引きこまれていく感覚が似ていたことが一番大きな理由だと思います。さらに、些細なタイミングや嬉しい偶然が重なって、「あ、今!」みたいな感覚もありました。笑
そんな企画者の意図を汲んでくださったおふたりに、とても感謝しています。
そんなこんなの経緯がありつつ始まったのですが、「実は、ふたりとも好きな作家さんなんです!」と喜んでくださった方がいらっしゃったのは私自身も驚きでしたし、とても嬉しい瞬間でした。
第一幕
2020.12.8tue-12.27sun
ガラスクラフト作家 サトウカヨ
前半と後半で展示替えを行いました。前半は円柱を意識してガラス粒を塊に。後半は空間全体に散りばめて、ガラス粒が降り注ぐイメージです。何に見えたか、何を感じたかは、まさに十人十色だったと思います。そして、そのどれもがそれであり、言葉で例えられないのもそれはそれでいいのだと思います。目の前にある集合体が何かの加減で揺れたり光ったり、ガラスを通して世界が反転して見えたり。写真ではなかなか伝えられない、瞬間瞬間の世界がそこにありました。インスタレーションの醍醐味だと思います。昼と夜、光の強さで刻一刻と変化するその集合体は、個々は小さな存在であることを忘れてしまうほどに人の心を動かす大きな力を感じました。
技術的なことも少し学びました。
ガラスと金属の融合はとても難しく、ガラスの種類と金属の種類それぞれに相性があることや、温度の加減や収縮率などとても繊細なコントロールが必要なことを知りました。そのひとつひとつの技術と経験の積み重ねによってつくられる作品だからこそ、人を惹きつけたり興味をそそられたりするのだと思います。やはり作り手から直接話をお聞きするとさらに興味の幅が広がっていきます。
アクセサリーもたくさんの方のもとへ旅立ち、第二幕に身につけてきてくださる方もいらっしゃってとても嬉しいつながりを感じました。バーナーワークによって独自の方法で制作するカヨさんの作品は、ガラスなのにとても柔らかくあたたかな印象がありました。
真鍮のワイヤーでフックやクリップを作るワークショップも開催。自分で作れるなんて!しかも結構簡単!ということで、こちらもたくさんの方が参加してくださいました。
第二幕
2021.1.5tue-1.24sun
銅版画家 中村眞美子
長野に住んでいるなら一度は必ず目にしたことがある何気ない風景や枯れた枝や葉。眞美子さんの視点で切り取られた植物たちがつくり出す個性的な形状から、改めて日常の視点がいかにあいまいであるかを思い知らされました。銅版に刻まれた傷から脆く乾いた枝葉が表現され、絶妙な濃度で刻まれた影の部分は、少し離れると描かれていないはずの雪がはっきりと浮かび上がります。上に乗った雪を払えば、葉がピンと跳ね上がりそう。モノトーンの世界から、温度や音、枝葉の質感までもが伝わってきます。
また、実際に刷った元版と手動のプレス機をお借りできたことで、版画の世界がぐんと広がりました。なかなか実物をみる機会がない中、この企画展を通して理解を深める貴重な一部になりました。
手動のプレス機は、せっかくなのでと、型押しワークショップを。こちらもクリエイティブな作品がたくさんできあがりました。
2ヶ月に渡り幾度と足を運んでくださった方も多く、じっくりと作品を味わっていただけたことをとても嬉しく思います。会期を終え、私自身もこれを書きながら、おふたりの魅力をさらに感じています。
作家さんと過ごす時間をはじめ、お越しいただいた方との会話の中ではっとする感想をお聞きすること、初めてtokioriの存在を知って興味を持ってくださる方がいらっしゃること、毎回企画展を通して気づきや貴重なご縁をいただいています。本当にありがとうございます。
次回はまた素敵な人、ものや事と出会った時に。
一緒に楽しんでいただけたら幸いです。